寤寐に(楽曲解説)(寺島)

こんにちは。ぱる公Vol.3「Novelist」作曲家の寺島です。

今回の公演も皆様のおかげで無事に終演することが出来ました。

ご来場いただきまして有難うございました。


さて。

今回どうしても今回作った組曲の楽曲解説をしたかったので例に漏れず演出さんに我儘を言ってこうして皆様の前に言葉を連ねる場を頂きました。

何を思って何を表現したくてこの曲達をこの音でこの楽器で作ったのか。

その思考を皆様に少しお裾分けしたく。

とんでもなく長くなる気がしていますがお付き合い頂けましたら幸いです。

数多くのネタバレを含みますので観劇してない方はご注意ください。


まず全体に共通することとして

「モチーフを入れること」

「一つの物語ごとに使う楽器を統一すること」

の2つを真っ先に決めました。

全曲作曲するからには組曲を作るメリットが必要です。

そのメリットとなるのが「統一感」であると私は考えました。

フリー音源では表現しきれない同じ劇中歌であるという証。

それが私にとってはモチーフと楽器の統一だったのです。

モチーフとなったのが前々回の私のにっきで書いた「曖」です。

気付いた方はいらっしゃるでしょうか。劇中で物語ごとに一回ずつ、最後の朗読の場で大々的に使って計4回登場しています。

11小節ほどの短い音ですがモチーフとするには少し長く少々苦戦しました。

まぁ最終的には綺麗に収まってくれたのではないでしょうか。

作曲中に何百回聞いたか分かりません。愛しい音です。

楽器の統一は物語ごとに主旋律を奏でるメイン楽器と副旋律を奏でるベース楽器の2つを登場させようと決めました。2つ以上にしなかった理由は単に私の技量不足と、シンプルな脚本に対してあまり煩くしたくなかったからです。

使用した楽器は

「雪の子」

メイン:トイピアノ

ベース:チェロ

「僕の黒猫」

メイン:オーボエ

ベース:ピアノ

「胡蝶の夢」

メイン:ハープ

ベース:ファゴット

でした。

それぞれの楽器を選んだ理由はまた後述しますが諸々の兼ね合いで鍵盤楽器、管楽器、弦楽器がバランスよく被らないように選びました。管楽器は金管楽器の突き抜ける音よりも木管楽器の温かみのある音の方がこの劇の世界観に向いていると感じたのでどちらも木管楽器です。

モチーフと楽器の制約を決めたあたりで「音楽の三要素」をそれぞれの物語へ対応させることを決めました。

音楽の三要素は、メロディ、リズム、ハーモニーの3つ。

今回の劇も短編の物語3つ。

一つ一つの世界観に共通するテーマとして音楽の三要素を用いることにしました。

「雪の子」にはメロディ

「僕の黒猫」にはリズム

「胡蝶の夢」にはハーモニー

をそれぞれ託しました。

脚本を読んで最初にしたことは調性の決定でした。

前回のにっきで書いたように私は合唱畑の人間なので調性は合唱曲を参考にし、脚本から感じた印象に近い合唱曲をピックアップしてその調性を流用する形で決定しました。


さて。

それでは各物語、各楽曲についての解説を。


<雪の子>

「雪の子」の一曲目、役者が並んで礼をした後明転するまでの間で流れていた曲です。

曲名は「友人」。最初期に作った曲なのでネーミングセンスがないですね。

友人というタイトルは勿論、滝田と雪村の二人の関係を表しています。

これは「雪の子」で作った曲すべてに共通することなのですが、メイン楽器のトイピアノは雪村を、ベース楽器のチェロは滝田をイメージして選びました。

脚本を読んで感じた雪村のイメージは好きなことをやって走り回る懸命な人、でした。

トイピアノはその構造上音が持続しません。その忙しなさが雪村っぽいなと感じて雪村を託すことにしました。

そして滝田はその雪村を許容する懐の深い流麗な人で在ってほしかった。

その気持ちから滝田の楽器は持続が利き流れるような音を作れるチェロになりました。

「友人」は特にその傾向が強く滝田の音は大きくは動きません。

ぽろぽろと動く雪村の音をただ見つめる滝田、という構図にしました。


「雪の子」二曲目、滝田と雪村が少しずつ仲良くなっていく中で流れていた曲。

曲名は「言葉と絵具」。滝田が使う言葉と雪村が使う絵具が重なる様を表現したくこの名前にしました。

今改めて聞き返してみて滝田が少しずつ雪村と同じように動いていく音だということを思い出しました。

滝田が雪村に徐々に心を開いていく様のように聞こえます。

個人的に一小節だけトイピアノの音が無くなって直前までトイピアノが奏でていた旋律をチェロがなぞる部分がお気に入りです。


「雪の子」三曲目、雪村と滝田の運命を決定づけた公園のシーンの曲。

曲名は「金木犀」。説明の必要もないですね、二人の約束の花です。

この曲はどうしようもなく壊れていく雪村の狂気の音にしようと決めていました。

ハーモニーもリズムも至ってシンプル。ただ二分音符と四分音符の繰り返しで音を重ねただけです。

その代わり、全音音階という音階を使っています。

簡単に説明すると、ドレミファソラシドではなくドレミファ♯ソ♯ラ♯ドから成る音階のことです。

直感に反する音の動きをする為、不穏な音を作れるのではないかと思って挑戦的にやってみました。

結果としては大満足です。皆様的にはどうだったでしょうか。


そして「雪の子」最後の曲、雪村が死んだ後の曲です。

曲名は「陶酔」。金木犀の花言葉からとってきました。

この曲は本来ひとつ前の「金木犀」と繋げて一曲として作るつもりでした。

それが曲名にも表れていますね。

この曲は雪村がいなくなった後の曲なのでトイピアノの音は使われていません。

その代わりに擦弦二重奏にする為に変則的にヴィオラが使われています。

この曲の調は悲しい調でもありながら神聖さが強く出やすい調でもあります。

神聖さが出てしまうと一歩距離を置いた悲しみになってしまうのでそのバランスをとるのに苦戦しました。


<僕の黒猫>

一曲目、小説家が動き出した直後から流れていた曲。

曲名は「気ままに」。亀山さん演じる猫の気ままっぽさを重視したくこの名前にしました。

そして「僕の黒猫」に共通してオーボエに猫、ピアノに小説家を託して作ってあります。

この曲は今回作った曲の中で最後に完成した曲です。

実は元々脚本を読んで作っていた曲はあったのですが、役者が確定した後に役者さんの解釈と私の解釈が合っていないと感じた為没にして代わりに作ったのがこの曲です。

元の曲よりもオーボエが奏でる猫の旋律に自由奔放さを足し、ピアノが奏でる小説家の旋律に猫と同じテンションで語る推進力を足しました。

またこの曲には変拍子を多く用いました。

6拍子で曲を始め5拍子に変え、8拍子へと変化した後、1小節ごとに7拍子、8拍子、7拍子、6拍子、7拍子、6拍子、5拍子、6拍子、5拍子、4拍子、3拍子、4拍子、3拍子、と切り替えていきました。

曲として演劇のノイズにならないように後半の畳みかける拍子の変化は小節の切り替わり直前に上昇音形を統一して入れることで拍子の変化のタイミングが分かりやすいようにしました。

更にスウィングのリズムも多用しています。

作っていてこの曲が一番頭を使いました。


前述の没案についても話しておきましょう。

曲名は「愛情」。猫と小説家の間の感情をそのまま名前にしています。

この曲はピアノの音がずっと同じリズムを刻み続けます。

脚本を読んだときに生真面目さを感じたからです。

この曲の小説家の音は「宇宙」という名前でまた別に作っていた曲が元になっています。

結果としてこの曲は没になりましたが私にとっては大切なお気に入りの曲の一つなので紹介させてください。


そして「僕の黒猫」劇中2曲目、使用人と小説家の会話のシーンの曲。

曲名は「ティータイム」。結構そのままですね。

猫のオーボエの音が高く激しく動くのに対比して小説家と使用人のシーンは低く落ち着けようと思いこの曲を作りました。男性同士ですしね。

ピアノ曲にしようかとも思ったのですが気ままな猫にじゃれてほしかったのでオーボエを変則的に短いフレーズで入れました。


「僕の黒猫」劇中最後の曲は「ティータイム」の直後、小説家が謎の真相に迫るシーンで流れていた曲。

曲名は「不思議」。割と最初期に作った曲です。

この曲の構造は当たってシンプル。

ピアノも鍵盤楽器でありながら単音でしか動いていません。

一般的でない部分と言えば7拍子であることくらいでしょうか。

そのシンプルさがかわいらしさに繋がっているように感じています。


<胡蝶の夢>

「胡蝶の夢」一曲目は「静夜」。暗転中から流れていたあの曲です。

「胡蝶の夢」の楽器は他の2篇とは異なり、キャラクターを表す楽器として選んだものではありません。

「胡蝶の夢」は月や月光がキーであると感じた為、それと相性の良いハープを使う以外の選択肢はありませんでした。全編通して一番初めに決まった楽器がハープだったかもしれません。

それに比してファゴットの決定は比較的遅かったです。

最終的にはハープを」受け止める懐の深い木管楽器として選びました。

「静夜」は今回の組曲唯一のリピートありの曲です。

同じ旋律が出てきたらお客様に気付かれてしまうかもしれないという懸念もありましたが統一感が出て綺麗にまとまったような気がします。

この曲は6拍子ですがそれを2拍子とすることでゆったりと流れるようにしました。

また、ハーモニーを重視する為に徹底的に不協和音を除いてあります。


「胡蝶の夢」2曲目は「夢想」。獏と窓辺で会話するシーンの曲です。

「胡蝶の夢」でモチーフを託されたのはこの曲。眠りから覚めてぼんやりと現実を認識する「静夜」に比べて青年という具体的な不思議な存在が出てくることからより具体的に音が比較的動くように作っています。


「胡蝶の夢」最後の、そして3篇の物語最後の曲。獏が別れを告げるシーンの曲です。

曲名は「月光」。「胡蝶の夢」の曲の曲名はシンプルなものが多いですね。

この曲はハープを二重奏にして音に厚みを作っています。

また2拍子の短調にすることでお別れの悲しみと出会いの美しさを表したつもりです。

個人的なお気に入りポイントはファゴットで始まりファゴットの音が余韻として残るところです。


<序文朗読>

3篇の物語の後、「注文の多い料理店」の序文を朗読するシーンで流れていた曲には「Novelist」の名前をお借りしました。

この曲は3篇の物語の間各所に散りばめた共通のフレーズ「曖」をそれぞれの物語のメイン楽器、トイピアノ、オーボエ、ハープに奏でてもらい、それを重ねて繰り返すことで一曲としました。

この曲はあまりにシンプルな構造故語れることもないのですが、この構造は脚本を読んだ時から決めていました。

伏線回収のようなものですね。


<開演前・終演後>

開演前の曲の曲名は「夢寐に」、終演後の曲の曲名は「寤寐に」。

夢寐は夢の中を意味し、寤寐は起きている間を意味する対義語です。

それぞれに導く意味を込めて助詞の「に」を付けました。

この2曲はとことん対になるように作ってあります。

「夢寐に」で用いた楽器はメイン楽器の3つ。

「寤寐に」で用いた楽器はベース楽器の3つ。

「夢寐に」でトイピアノが奏でた旋律をそのまま「寤寐に」のチェロの旋律へ。

他の楽器についてもオーボエからピアノ、ハープからファゴットとそれぞれの物語と対応させメイン楽器とベース楽器が同じ音を奏でるようにしました。

また、調性も「夢寐に」はドから始まる長調、「寤寐に」はドから始まる短調としてあります。


まだまだ語りたいところなのですがあまりにも長くなってしまったのでこのあたりで。

今回作曲機会を頂けたこと、こうやって解説の場を頂けたこと感謝してもしきれません。

改めてご来場いただきまして有難うございました。

名残惜しいですが寤寐へと帰ることとします。

お付き合い頂いて有難うございました。

機会がありましたらまたお会いしましょう。では。

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ぱるてのん(田中晴愛)が 山口大学演劇サークル劇団笛の仲間と共に始めた演劇 通称ぱる公のホームページです。